190.M&Aしたときの従業員の雇用契約について

190.M&Aしたときの従業員の雇用契約について-人事・労務の豆知識 Podcast

今回は、アーカイブページから、M&Aの雇用契約について取り上げました。
こちらからぜひ登録して、スタッフの動画もご覧ください↓

恵社労士事務所アーカイブ

今週は M&Aのお話をしようかと思います。
弊社は月に1回、事務所のセミナー動画をYouTubeで配信しております。

こちらは限定公開になっておりまして、弊社のホームページのアーカイブ登録ページがあるのでそこからご登録いただけるといろいろな動画を見ることができます。
この動画はスタッフが毎月企画を出して作ってくれています。

今月も恵社労士事務所アーカイブで扱ったテーマをもとに、私の方でPodcastの配信をしてまいります。

今週のテーマについて

今回はM&Aをしたときの事業譲渡・合併・会社分割の際の労働契約についてのお話になります。
そういう時の労働契約はどのようにすればよいのか、弊社のスタッフが調べてきてくれました。
会社を作る→育てる→売却するというお話の中には、その会社で働いている従業員の方がいらっしゃいます。
こういった場合に従業員の方について、会社さんはどの様に労働契約を切り替えていくのか。
これはとてもややこしいのです。

用語の説明

まず前提となる、用語の説明をしたいと思います。

M&A
Mergers(合併)&  Acquisitions(買収)の略になります。
これから説明する、事業譲渡・合併・会社分割はこの中に入ります。

事業譲渡(一部譲渡と全部譲渡)

A社の会社の中にあるa事業の全部または一部を、B社へ譲渡します。
※A社の会社の事業の全部をB社へ譲渡した場合、A社は解散することがあります。
A社もB社もそのまま存在して、a事業だけがB社へ移るという形になります。

合併(吸収合併と新設合併)

吸収合併
消滅する会社・・・A社
存続する会社・・・B社
A社とB社で吸収合併契約をして、B社の中にA社が吸収され合併します。
A社が消滅し、B社に吸収されて、今後A社はB社の中で生きていくような形です。

新設合併
消滅する会社・・・A社とB社
新設する会社・・・C社
A社とB社で新設合併契約をして、新たにC社を新設します。
A社とB社の両方ともが合併してなくなり、新しくC社という会社を作るという形です。

会社分割(吸収分割と新設分割)

吸収分割
分割する会社・・・A社
承継される会社・・・B社
A社とB社で分割契約をして、A社の一部(a)を分割し、B社へ継承されます。
もともと一社だったA社の一部(a)が分割されて 、B社の一部(a)として吸収分割される形です。

新設分割
分割する会社・・・A社
新設される会社・・・B社
A社の中で分割計画をたて、A社とB社の2社に分割されます。
もとからあるA社を、A社とB社に分けて、新しく会社を設立して分割する形です。

M&Aしたときに適用される法律について

事業譲渡は特定承継、合併は包括承継されます。 (※厚生労働省からも留意すべき指針が出ております。)
対象の従業員さんは従前の労働契約がそのまま承継されますが、両者には同意要件についての違いがあります。

事業譲渡の場合

A社のa事業がB社に移りますという形になった時には
「あなた(従業員さん)はA社のa事業にいましたが、そのa事業はB社へ譲渡されます。」
「今までのお仕事をそのまま B 社で続けることができます。」
「その場合に、労働契約は基本的に今のままです。」
このような形でa事業の従業員さんは従前の労働契約を守られつつ、B 社に移ることができます。

しかしA社はそのまま存在しているわけです。
そのときにa事業の従業員さんから、「私はA社と労働契約をしています。B社には移りたくありません。」と言われた場合には、その従業員さんをB社へは移せません。
そのため従業員さんの同意が必要です。

合併の場合

今いる会社がなくなるというのが前提にあるので、従業員さんの同意は必要ありません。
従業員さんの権利義務に関しては、包括承継という形で今までの権利義務をそのまま持っていきます。
A社が消滅してB社へ吸収合併されるという形になったとしても、今までのA社の労働契約がそのままB社へ引き継がれるというようなことになっています。
新設合併をして新しい会社を作るとしても、今までの労働契約は守られつつ合併するということになっています。

会社分割をされる場合というのは、労働契約承継法という労働者を保護する法律があります。(※この法律は事業譲渡や合併には適用されません。)
労働者ご本人に異議申出権があり、今までの契約を承継するということが守られているものになります。

会社分割の場合

・承継される事業で主に働いている
・承継される事業で主に働いていない
これら2つで取り扱いが違います。

例)会社分割で、A社の営業部門をB社に承継させる場合
(1) A社の営業部門で主として従事している方→分割契約等に承継させる旨の定めがある労働者等へ書面通知→B社に承継
(2) A社の営業部門で主として従事している方→分割契約等に承継させる旨の定めがない労働者等へ書面通知→B社に不承継(労働者が書面で異議申出するとB社に継承)
(3) A社の営業部門で主として従事していない方→分割契約等に承継させる旨の定めがある労働者等へ書面通知→B社に承継(労働者が書面で異議申出すると不継承)
(4) A社の営業部門で主として従事していない方→分割契約等に承継させる旨の定めがない→不継承(A社に残る)

会社分割をする会社は労働者・労働組合に対して労働契約の承継に関する事項等を書面通知し、一定の期間(最低2週間)を設けて異議の申出を受け付けることが必要です。

これらの手続きには時間的余裕を持つことに注意をしてください。

ここまでのお話をまとめると事業譲渡・合併・会社分割のいずれも、今までの労働条件は保護されるということになります。

しかしながら、事業譲渡・合併・会社分割いずれにせよ新しい会社に変わるわけです。
例えば事業譲渡をしてA社のa事業がB社に移ったとした場合に、B社はa事業の従業員さんに対して自社の労働条件や就業規則に合わせてもらいたいと思います。
そうなると事業譲渡等の後に労働条件等の変更をしたい会社さんがほとんどです。

実際にご相談を聞いていると、相対的に事業譲渡等された後の会社さんの方が大きくて資本もあり、従業員さんのお給料や福利厚生的な部分も上がって、特に問題なく譲渡等されることの方が多い気はします。
ただ一方で、今までのA社の条件そのままではB社はやっていけないということもあります。
この場合とにかくB社のやり方に合わせてもらうということで、従業員さんの労働条件等の不利益変更が発生する場合もあります。

それは事業譲渡等とは関係なく、事業譲渡等された後の労働条件等の変更の話になります。
会社さんと従業員さんとで納得の上で、合理的な理由があった上での変更となるということですね。

会社分割手続きの流れについて

先ほどもお話ししたように、会社分割には労働契約承継法という法律があります。
(※この法律は事業譲渡や合併には適用されません。)

労働契約継承法会社分割が行われる場合に、労働契約の承継等に関して労働者の保護を図ることを目的とした法律です。(厚生労働省HP一部抜粋)

簡単にいうと、従業員さんの権利をそのまま引き継ぎましょうという労働者保護の法律になります。
会社分割時に、会社さんとしてはきちんと従業員さんとお話しをした上で就業規則や労働条件の変更したと思っていたとします。
しかしこのとき協議と通知という手続きをしっかりと行っていないと変更が認められなかったケースがあります。

まず労働契約承継法第7条に、「雇用する労働者の理解と協力を得るように努める」ということで、しっかり労働者と協議をしましょうということが定められています。
こちらは努力義務ですが、ほぼ義務みたいなものといえます。
これを7条措置といいます。

あと平成12年商法等改正法附則第5条個別の労働者との協議が定められており、労働契約の承継に関する労働者との協議をしなければなりません。(※労働者は労働組合を代理人として選定することも可能です。)
こちらは義務になります。
これを5条協議といいます。
それから2条通知と呼ばれる、労働契約承継法第2条の書面による通知も必要と定められています。

これらの7条措置5条協議をふまえてしっかりと個別に協議をして、2条通知を書面で行いましょうということになります。(※時間的余裕にも注意が必要です。)



より詳しく知りたい方は
・会社分割に伴う労働契約の承継等に関する 法律(労働契約承継法)の概要-厚生労働省
・会社分割・事業譲渡・合併における労働者保護のための手続に関するQ&A-厚生労働省という資料もありますので、ご参照ください。

これまでお話ししたように会社分割の場合にしっかりと協議と通知の手続きをしておかないどうなるのか。

会社分割した後で
・労働条件の変更を行ったとき
・1回退職して転籍という形に持って行ったりした場合でも実際は会社分割とされたとき
これらのときに協議と通知の手続きをやっていなかったとなると全部ひっくり返されてしまう判例もあるようです。

こういったこともありますので、この手続きに関してはすごく気をつけた方がよいと思います。

M&A後の就業規則統合について

M&Aの後というのは、いろいろな会社が集まってきてひとつの会社になるので就業規則が複数存在するわけです。
M&Aの直後はそれまでの仕事を継続している状態だと思います。
しかしその後何年も経過すれば、同じ会社の一員として部署の異動もあるでしょうし、違う会社だった人たちもだんだんと同じ会社の人になっていくわけですね。

その時に就業規則が複数存在していて、この人はA社の就業規則、この人はB社の就業規則というように個別に対応されていて、お給料等がバラバラになってしまっている可能性もあります。

これらの就業規則を統合する作業が、どこかでは必要になってきます。

そのときに労働条件等が不利益変更となってしまう従業員さんが出てきてしまう場合があります。
そういう場合には、就業規則の変更を行う際の不利益変更の合理的な理由というのがしっかりとあればできないこともないのですが、やはりかなり厳しいのでそこはすごく慎重に行う必要があります。

就業規則の不利益変更について、会社さんと従業員さんの方のどちらが優先されるかというと、会社さんの方が実はちょっと優先される節はあります。
従業員さんの権利を守り続けてしまうと会社さんが潰れてしまうようなケースの場合は、会社存続のために就業規則の不利益変更をしても通ることが稀にあるということです。

しかしそうではなくて、会社経営を就業規則の不利益変更以外のところで建て直せる可能性があるにも関わらず、まず就業規則の不利益変更に手をつけてしまったという場合には会社さんはかなり不利になります。
重ねて申し上げますが、やはりこれはすごく慎重に行う必要があります。

このお話はPodcastでも配信しております。

恵社労士事務所アーカイブのセミナーでは動画でパワーポイントを使用して、今回のお話の詳しい説明や判例などもご紹介しておりますので、ご登録のうえぜひご覧ください!

今週はここまでになります。

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